シックスパッド系EMSレビュー。優秀なガジェットだが、人間の筋肉はUSB充電では育たない

ガジェットレビュー

ガジェットとしての完成度は非常に高い

まずは純粋なテクノロジーの視点から評価します。専用アプリとのBluetooth連携のスムーズさ、電気パルスの緻密なコントロール、薄型で身体にフィットするプロダクトデザイン。純粋な「電子機器」として見れば、EMSデバイスは非常に優秀で、所有欲を満たしてくれるガジェットです。アプリでトレーニングログが視覚化されるUIもよく出来ています。

「筋肉を収縮させること」と「運動すること」は別物である

ガジェットとして優秀であることと、人間の身体を機能的にアップデートできるかは別問題です。ここで、通常の運動とEMSの決定的な違いについて、現実的な話をします。

自分で腹筋運動をする時、人間の身体は単に筋肉を縮ませているわけではありません。自分の意思で動きを制御する随意運動の中で、姿勢を保ち、周囲の筋肉と協調しながら動作を完結させています。 また、筋力や筋肥大を考えるうえで重要なのが、重力などの負荷に耐えながら筋肉が引き伸ばされる「エキセントリック収縮」のフェーズです。実際の運動は、単に筋肉を収縮させるだけではなく、こうした複数の要素が連動した複雑なシステムとして機能しています。

一方、EMSはどうでしょうか。 EMSは外部からの電気刺激によって運動神経を刺激し、本人の意思とは別に筋収縮を起こすデバイスです。方式や出力によっては深部の筋肉にも作用し、狙った筋群に一定のトレーニング刺激を与えることは可能です。

しかし、ここで決定的に異なるのが、自分の意思で運動を開始し、全身を連動させてコントロールする神経制御のプロセスです。

あえてコンピューターにたとえるなら、通常の運動が「脳というOSから指令を出し、身体全体を制御して動かす」ものだとすれば、EMSは外部からの電気刺激によって、筋収縮を誘発する入力を直接与えるものです。 筋肉が収縮するという物理現象は起きていても、通常の随意運動で生じるような、姿勢制御・関節運動・複数の筋肉の協調といった全身的な運動制御を、同じように再現しているわけではありません。

強い刺激によって筋疲労が生じることはあります。しかし、それだけをもって通常の運動と同じ効果が得られたとは言えません。「筋肉が収縮すること」と、全身を統合して「運動すること」は別の話です。

EMSは筋肉に刺激を入れるツールとしては機能します。しかし、それを運動そのものと考えたり、通常の運動を完全に置き換えられると考えたりするのは適切ではありません。

ランニングコストという名の「物理サブスクリプション」

ガジェット好きとしてもう一つ指摘しておきたいのが、専用ジェルシートの存在です。 本体価格とは別に、定期的に消耗品のジェルシートを買い替えなければならない構造は、事実上の物理サブスクリプションです。数ヶ月維持するだけで、そこそこのダンベルセットや良質なランニングシューズが買えてしまうコスト感には、冷静な判断が必要です。

結論:テクノロジーの体験としてはアリだが、運動の代替にはならない

実生活で自在に動ける機能的な身体を育てるためには、自分の意思で身体を動かし、複数の筋肉を協調させ、姿勢を制御し、さまざまな負荷に対応するという、「身体全体を使った運動」そのものが必要なのです。

「新しいテクノロジーを身体で体験する」という目的で買うなら、非常に面白いデバイスです。しかし、「これさえ貼っておけば運動しなくていい」という期待を抱いているなら、そのお金で美味しいものを食べて、近所を30分歩いた方がよほど身体にとって健全です。 人間の身体は、外部からUSBケーブルで電気を流し込んでおけば自動でスペックが上がるほど、都合のいい構造にはなっていないのです。

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